さびしい自転車のり

シャーロック・ホームズのシリーズの中の一遍として「さびしい自転車のり」というエピソードがある。

一般的には「孤独な自転車乗り」や「美しき自転車乗り」などのタイトルの方が通りが良いらしいのだけれども、私が小学生の時に読んだ児童版の翻訳だと「さびしい自転車乗り」だった。

「バスカヴィル家の犬」みたいなメジャーなエピソードではない。

要約すると美人の家庭教師が自転車通勤中にストーカーされるというだけのまとめてしまうと身も蓋もないエピソードでトリック的に優れているわけでもなんでもないのだが、小学生の時に読んだ私には妙に記憶に残るエピソードだった。

「プライオリ学院事件」「さびしい自転車のり」「金縁の鼻眼鏡」あたりが幼少の頃の私は気に入ったらしくこの辺のエピソードだけはやたら細かいところまで覚えている。

どうも複雑な男女の人間関係が垣間見えるエピソードが好きな嫌なガキだったらしい。

どれも子供が喜びそうなエピソードではないし、「プライオリ学院事件」に至ってはラストシーンのホームズは相当なワルであり、これを喜んで読む小学生がまともな大人になるわけがない。

結果やはりまともな大人にはなってないわけだが。

 

で、「さびしい自転車のり」に戻る。

美人家庭教師が人気のない道を一人で自転車通勤していると、一定の離れた距離を保って怪しげな男が自転車に乗ってついてくる。

しかし、接近してくることはない……なんだ19世紀からストーカーはいたんだなとわかるエピソードである。

これを想起させてしまう出来事がここのところ毎朝私の通勤中に起きている。

通勤運転中にいつも自転車に乗った女性とすれ違うのである。

そしてそれからしばらくすると、同じ顔をした女性とまたすれ違うのである。

…何を言っているのか分からないかもしれないが、とにかくそういうことなのである。

自転車に乗った女性Aとすれ違う。

そこから数百メートル離れて同じ顔をした自転車に乗った女性Bとすれ違う。

これが毎日続くのだから、なにか時間ループ小説の世界にでも迷い込んだような奇妙な感覚に陥る。

姉妹なのか双子なのかはわからないが、顔が同じ女性と二度すれ違うのだ。

同じルートを通るなら一緒に走れば良いだろうに、何故か必ず数百メートル離れて走っているもんだからすれ違うこっちとしては不気味である。

そもそも本当に二人なのだろうか。

ずっと同じ女性が一定間隔あけた状態で自転車をこいでいる無限ループの時空間が朝の通勤時間帯だけ発生していて私だけにそれが見えるとかいうヤバイ話じゃないと良いのだけれど。